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広島高等裁判所松江支部 昭和36年(ネ)84号 判決 1964年1月31日

主文

原判決中被控訴人小豆沢利平、同福田馨に関する部分を取消す。

被控訴人小豆沢利平、同福田馨の請求を棄却する。

控訴人の被控訴人陶山馨に対する控訴を棄却する。

被控訴人小豆沢利平、同福田馨、同田中長久の本件附帯控訴を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じ、控訴人と被控訴人小豆沢利平との間に生じた分は同被控訴人の負担とし、控訴人と被控訴人福田馨との間に生じた分は同被控訴人の負担とし、控訴人と被控訴人田中長久との間に生じた分はこれを五分し、その一を同被控訴人の、その余を控訴人の負担とし、控訴人と被控訴人陶山馨との間に生じた分は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人等の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。」との判決を求め、被控訴人等代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求め、附帯控訴人等代理人は「附帯被控訴人は(一)附帯控訴人田中に対し金二、七〇〇円を支払い、且つ金一二、五〇〇円の支払と引換に別紙目録記載30、31、32の株券を引渡し、名義書換手続をし、(二)附帯控訴人小豆沢に対し金五、四〇〇円を支払い、且つ金五〇、〇〇〇円の支払と引換に別紙目録記載33の株券を引渡し、名義書換手続をし、(三)附帯控訴人福田に対し金一六、八七五円を支払え。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、附帯被控訴代理人は「本件附帯控訴を棄却する」。との判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述および証拠関係は、左のとおり附加するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

被控訴人等代理人は「原判決添付目録24ないし28の三菱化成工業株式会社(24の日本化成工業株式会社は三菱化成工業株式会社の旧商号である)株式五〇〇株は被控訴人田中に、同目録14ないし23の株式会社酉島製作所株式一、〇〇〇株は被控訴人福田に、同目録4ないし13の日本通運株式会社株式一、〇〇〇株は被控訴人小豆沢にそれぞれ属するのであるが、右株式の名義書換手続未了の間に、その株券を保管していた島根証券株式会社が破産宣告を受け、その破産管財人に就任した控訴人がこれを破産財団に属するとして占有するに至つたものであるところ、右株式が被控訴人等の右主張のとおり被控訴人等に属すると、控訴人主張のとおり破産財団に属するとを問わず、旧株主名義のままにしておくと、配当金の支払および増資新株の割当がいずれも旧株主に対してなされ、被控訴人等ないし破産財団において後日その回収をはかることが困難となるので、これを防止し、後日正当な権利者が明らかになつた際、その者に配当および増資新株引受の利益を帰属せしめる目的を以つて、昭和三六年四月三日の第二回債権者集会並に債権調査期日における関係人一同の決議に基き、控訴人は前記各株式を控訴人名義に書換の手続をなし、24ないし28の三菱化成工業株式会社株式五〇〇株につき、第二二、二三期配当金各金一、三五〇円合計金二、七〇〇円を受領し、且つ金一二、五〇〇円を払込んで別紙目録30ないし32の増資新株式二五〇株を取得し、4ないし13の日本通運株式会社一、〇〇〇株につき、第四二期配当金五、四〇〇円を受領し、且つ金五〇、〇〇〇円を払込んで33の増資新株式五〇〇株を取得し、14ないし23の株式会社酉島製作所株式一、〇〇〇株につき第六六期配当金六、七五〇円、第六七期配当金五、六二五円、第六八期配当金四、五〇〇円合計金一六、八七五円を受領した。控訴人がかように配当金の受領および増資新株の申込払込をしたのは、いずれも以上のとおり正当な権利者のためになしたものであるところ、その正当な権利者は前記のとおり被控訴人等であるから、控訴人は被控訴人田中に対し配当金二、七〇〇円および30ないし32の株券を引渡し、その名義書換手続をし、被控訴人小豆沢に対し配当金五、四〇〇円および33の株券を引渡し、その名義書換手続をし、被控訴人福田に対し配当金一六、八七五円を引渡すべき義務がある。」と述べた。

控訴代理人は「被控訴人等の右主張事実中、日本化成工業株式会社がその商号を三菱化成工業株式会社と変更したこと、控訴人が4ないし28の株式につき昭和三六年四月控訴人名義に書換手続をしたこと、控訴人が被控訴人等主張のとおり配当金を受領し、増資新株式の申込払込をして、30ないし33の株式を取得したことは認めるが、右名義書換、配当金の受領、増資新株式の申込払込を被控訴人等の利益のためになしたものであることは否認する。4ないし28の株式はいずれも破産財団に属するものであつて、控訴人はその破産管財人の職務の執行として右名義書換等をなしたにすぎない。

仮に4ないし28の株式が被控訴人等主張のようにそれぞれ被控訴人等に属するとしても、会社に対する配当請求権および新株引受権はいずれも一定時現在株主名簿に株主として登載された者に存するのであるから、4ないし28の株式についての配当金および増資新株式はいずれも株主名簿に株主として記載された控訴人が取得するのは当然であつて、これを被控訴人等に引渡すべき義務はない」。と述べた。

立証として、被控訴人等代理人は甲第九ないし第一一号証を提出し、乙第二、第五号証の成立を認めると述べ、控訴代理人は原審における乙第二、第五号証を提出し、当審証人久保哲男、伊藤精吉の各証書を援用し、右各甲号証の成立を認めると述べた。

理由

一、島根証券株式会社(以下破産会社という)が証券業を営んでいたこと、同会社が昭和三六年二月一七日松江地方裁判所で破産宣告を受け、同日控訴人がその破産管財人に就任したこと、控訴人が原判決添付目録記載29の投資信託受益証券、4ないし、 の株券および別紙目録記載30ないし33の株券を占有していることは当事者間に争がない。

二、まず被控訴人小豆沢、福田の請求について判断する。

原審および当審証人伊藤精吉の証言によれば、破産会社は顧客から株式買付の委託を受けると、破産会社の名で伊藤銀証券株式会社にその買付を委託し、同会社から株券を取得して、これを顧客に引渡すことを常態としていたことが認められる。ところで右被控訴人等は、4ないし13の日本通運株式会社株式一、〇〇〇株は被控訴人小豆沢が昭和三四年末頃、14ないし23の株式会社酉島製作所株式一、〇〇〇株は被控訴人福田が同年八月頃それぞれ破産会社を通じて買付け、名義書換手続未了のまま、破産会社に寄託していたもので、その株券はいずれも右各被控訴人の所有に属すると主張する。右主張に沿う資料としては、原審および当審証人伊藤精吉の、右株式がいずれも同被控訴人等から委託を受け前記のような方法で買付けたものである旨の証言と、右株券がいずれも右被控訴人等の所有である旨記載された甲第四号証が存するのであるが、右甲第四号証は伊藤精吉が昭和三五年一〇月作成した右被控訴人等の代理人宛の書面であつて、株式の取引に当り作成されたものでないことはその記載から明らかであり、右被控訴人等がその主張のころ右銘柄の株式買付を破産会社に委託したこと、破産会社が右被控訴人等のためその買付けをしたこと。それが4ないし23の株券であることを証すべき売買報告書、預り証、商業帳簿等(証人伊藤精吉は右被控訴人等に売買報告書、預り証を交付した旨述べている)は何一つ証拠として提出されず、右被控訴等本人の供述すら存しないのであつて、前記甲第四号証の記載内容および証人伊藤精吉の証言はにわかに信用しがたく、その他本件に顕れたすべての証拠によつても、未だ右被控訴人等の前記主張事実を認めるに足りない。

そうすると、右被控訴人等の請求は、その余の点について判断するまでもなく、すべて失当であるといわざるを得ない。

三、次に被控訴人田中の請求について判断する。

(一)  まず24ないし28の株券の引渡の請求について考察する。

成立に争のない甲第五号証第七号証の一、二、乙第四号証、原審および当審証人伊藤清吉の証言によれば、被控訴人田中はかねて同被控訴人名義の三菱化成工業株式会社一、〇〇〇株を信用取引の証拠金代用証券として破産会社に提供し、破産会社はこれをその取引先たる伊藤銀証券株式会社に破産会社の名を以つてする信用取引の証拠金代用証券として差入れていたが、昭和三四年末頃破産会社は右被控訴人から右株券返還の請求を受けたので、伊藤銀株式会社にその返還を求めたところ、同会社は右控訴人名義の三菱化成工業株式会社株式一、〇〇〇株のうちの五〇〇株と同証券会社の有する岡本淑子名義の24の日本化成工業株式会社(日本化成工業株式会社が三菱化成工業株式会社の旧商号であることは当事者間に争がない)一〇〇株および25ないし28の三菱化成工業株式会社四〇〇株を破産会社に引渡し、右岡本名義の株式五〇〇株を以つて右被控訴人名義の株式五〇〇株の返還に代えたい旨申し出たので、破産会社はこれを承諾したうえ、右被控訴人に対し右被控訴人から差入れを受けた前記三菱化成工業株式会社株式一、〇〇〇株のうち五〇〇株はこれに代えて右岡本名義の株式五〇〇株を以つて返還することを了解されたい旨申し入れて右被控訴人の承諾を得、右被控訴人のため保管していたことが認められる。そして24ないし28の株券には前株主岡本淑子の裏書のための捺印が存することは当事者間に争がないから、24ないし28の株式は前株主岡本の裏書印のまま伊藤銀証券株式会社から破産会社へ、破産会社から右被控訴人に順次譲渡されたものと認められる。

控訴人は破産会社と右被控訴人間の右株式の譲渡は無効であると主張するから、この点について検討する。まず控訴人は、右譲渡については株券の交付がないから無効であると主張するけれども、株券の交付は現実の引渡によるほか、占有の改定によつてもこれをなし得るものと解すべきであつて、前記認定の事実によると、破産会社は伊藤銀証券株式会社から交付された右株券を、占有の改定により、右被控訴人に交付したと認められるから、右主張は採用しない。

次に控訴人は、本件株券には裏書人の捺印はあるけれども記名を欠くから、その譲渡は無効であり、少くとも記名を補充しなければその譲渡を第三者たる控訴人に対抗し得ないと主張する。なるほど株券の裏書による記名株式の譲渡には譲渡人の署名または記名捺印を要することは法の明定するところであるけれども、記名は署名と異り、何人がしても差支えないものであるから、裏書欄に前株主の捺印のみある株券の交付を受けた株式譲受人は、裏書人の記名の補充権を与えられたものとして、かかる譲渡も有効というべきであり、ただ譲渡人はその記名を補充して株式所持人としての形式的資格を整えなければ、会社に対し株主名簿の名義書換を請求してこれを拒否されるというに過ぎず譲渡人に対してはもとより、その破産管財人に対しても、その記名を補充することなく、株式の取得を主張し得るものと解するを相当とする。したがつて控訴人の右主張も採用しない。

さらに控訴人は、右株式については株主名簿上右被控訴人に名義の書換がなされていないから、その取得を第三者たる控訴人に対抗し得ないと主張するが、名義の書換がなければ会社に対し株主としての取扱を要求し得ないだけのことであつて、名義の書換がなくても、第三者に対し株式の移転を主張するに何らの支障もないから、右主張もまた失当である。

されば24ないし28の株式は昭和三四年末頃破産会社から被控訴人田中に移転したものであつて、破産財団には属しないというべきである。したがつて24ないし28の株券は右被控訴人の所有に属し、控訴人は右被控訴人に対しその引渡しをしなければならないわけである。

(二)  次に配当金および30ないし32の株券の引渡の請求について考察する。

24ないし28の日本化成工業株式会社株式一〇〇株、三菱化成工業株式会社株式四〇〇株につき、控訴人が昭和三六年四月控訴人名義に書換の手続をしたこと、その後控訴人が右株式につき同会社から配当金二、七〇〇円を受領し、同会社の増資新株の割当を受け、金一二、五〇〇円を払込んで、30ないし32の株式二五〇株を取得したことは当事者間に争がない。

被控訴人田中は、控訴人が右名義書換、配当金の受領、増資新株の申込払込みをなしたのは、いずれも24ないし28の株式の正当な権利者、すなわち右被控訴人のためにしたものであるから、控訴人は右被控訴人に対し右配当金および増資新株式を引渡すべき義務があると主張する。しかし成立に争のない甲第九号証その他本件に顕れたすべての証拠によつても、控訴人の右名義書換、配当金の受領、増資新株の申込払込が、右被控訴人のためになされたものであることを認めるに足らず、むしろ弁論の全趣旨によれば、控訴人は24ないし28の株式が破産財団に属すると信じ、破産財団のためにこれをなしたものであることが明らかである。したがつて右被控訴人の主張は理由がない。(不当利得の主張は右被控訴人のなさないところである)

四、次に被控訴人陶山の請求について判断する。

29の投資信託受益証券が無記名であることは当事者間に争がなく、成立に争のない甲第五号証、乙第六、第七号証、原審および当審証人伊藤精吉の証言によれば、被控訴人陶山は昭和三四年七月頃破産会社に対し金五〇、〇〇〇円を交付して、野村証券株式会社から投資信託受益証券の買付方を依頼し、これに基き、その頃破産会社が右被控訴人の代理人として野村証券株式会社から29の投資信託受益証券を買受けてその引渡を受けたものであることが認められるから、これにより右被控訴人はその受益証券を取得したものといわなければならない。

控訴人は右受益証券は民法第八六条により動産とみなされるから、右被控訴人が破産会社からその引渡を受けない限り、第三者たる控訴人に対してはその取得を対抗し得ないと主張するが、前記認定のとおり、右被控訴人は破産会社からその受益証券を取得したのではなくて、破産会社を代理人として野村証券株式会社からこれを取得したのであるから、破産会社が野村証券株式会社からその引渡を受けた以上、右被控訴人と破産会社との間でその引渡があつたか否かを問うまでもなく、右被控訴人はその取得を第三者に対抗し得ることはいうまでもないところであつて、それが破産財団に属しないことは明らかである。したがつて控訴人は右被控訴人に対し右受益証券を引渡すべき義務がある。

五、そうすると被控訴人等の請求中、被控訴人陶山の請求および被控訴人田中の請求のうち24ないし28の株券の引渡を求める部分は正当であるから、これを認容すべきであるが、被控訴人田中のその余の請求および被控訴人小豆沢、同福田の請求はいずれも失当として棄却すべきであり、控訴人の本件控訴は一部理由があり、被控訴人田中、同小豆沢、同福田の本件附帯控訴はいずれも理由がない。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九二条第九三条第九六条を通用し、主文のとおり判決する。

目録

<省略>

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